ウクライナ市民の軍人訓練に感じた衝撃
 冬季オリンピック2022で世界が賑わっている2月中旬、ウクライナではロシアの侵攻に備え一般市民が木製の銃を使用して軍事訓練を行っているニュースをネット記事で見かけた。平和な暮らしを営んでいる私にとって「戦争」にリアリティはないが、資金不足で実物の銃を用意できず「木製の銃」を携えているウクライナ市民の姿には衝撃を受けると共に妙なリアリティを感じたことを覚えている。ニュースのコメント欄やsnsでも、戦時中の日本兵が近代兵器に対して竹槍で対抗していたことを想起させるという投稿が多く見られた。
 当時日本はコロナウイルスの第6派が訪れていたが、このニュースをきっかけにsnsではウクライナ情勢の話題が増えていった。そして2月24日、プーチン大統領はウクライナ東部に「特別軍事作戦」を開始すると発言した。この日から日本ではメディアが盛んにウクライナ情勢を取り入れ、大手検索サイト「Google」でも「ウクライナ」というキーワードは「コロナ」に迫る勢いで検索ボリュームが上昇した。しかし、3月半ばを過ぎてからは検索ボリュームは下がり、snsでの発信も減少していった。

*検索ボリューム…該当するキーワードがGoogleでどれだけ検索されているかを表す指標

出典:GoogleTrends
消費されてしまったトピック
 この減少が他の国でも当てはまることかどうかが気になり、日本よりも単位を拡大するため英語圏での検索ボリュームを調べてみた。検索キーワードを「Ukraine」と「covid」で調べた場合、ウクライナ侵攻開始日の検索ボリュームは圧倒的にUkraineが多く、その後は日本と同じようにボリュームが低下していった。しかしUkraineとcovidの比率は日本ほど差が開いていおらず、英語圏では依然としてウクライナ情勢に対し強い興味関心があることを伺える。
 なぜ日本ではウクライナ侵攻への興味関心が薄れてしまうのか考えたとき、戦争に対するリアリティの欠如があるのかもしれないと感じた。ウクライナ侵攻以前から中東では紛争が繰り返されているのにも関わらず、日本のメディアで大々的に取り上げることは少なかった。印象操作は少なからずあるだろうがトピックとして取り上げやすいウクライナだから今回は大きく報道されたのだと思う。そして近々の問題であるコロナや円安による懐事情が常に頭をよぎるため、ウクライナ侵攻は異国で行われている出来事として消化されてしまった。
 今回、現代造形表現作家フォーラムに出展するにあたりウクライナ侵攻を取り上げることは、私自身ウクライナ侵攻をトピックとして消費していることは事実だが、それでも目を背けて別の作品を制作することはできないと思い本作品「一歩前へ」を展示することを決めた。
出典:GoogleTrends
ダンボール製の銃
 本作品「一歩前へ」では、ロシアの軍事侵攻による被害に少しでも作家として貢献できるよう募金箱を設置している。募金をしていただいた来場者の方は、展示しているダンボール製の銃を持ち帰ることが可能だ。ダンボール製の銃は脆弱ですぐに折れてしまうが、ウクライナ情勢によって木材の入手が困難になっている現在、日本に軍事侵攻が行われた場合に我々が持つ可能性もある。
*募金箱に入れて頂いたお金は全額「在日ウクライナ大使館」に寄付します。在日ウクライナ大使館への寄付金は避難者の生活支援、インフラ復旧、住宅再建などに使用され、兵器等の購入には使用しないと公表されています
*ダンボール製の銃を持ち帰りたい方は受付の係員の方にお声がけください。​​​​​​​

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